大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所 昭和61年(ネ)148号 判決

控訴人 国

代理人 渡邉温 宮越健次 森義則

被控訴人 宗教法人神理教山陽教会

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件訴えを却下する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一申立

控訴人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第二主張

当事者双方の主張は、次に付加、訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  被控訴人の主張

1  被控訴人の調査によつても、「広島市共有地」なる何らかの団体が存在したか不明であり、また、大柿一族が果たして本件土地の所有者であつたのかも不明である。

2  控訴人が現在本件土地について所有権を主張していなくても、抽象的に民法二三九条二項により無主の不動産の所有者として所有権を主張しうる立場にあるだけで確認訴訟の相手方となる適格性を有すると解すべきである。なぜなら、たまたま現在控訴人としては本件土地の所有権を争わない方針であつても、将来、担当者の意向如何では控訴人が所有権を主張することはありうるのであつて、そのような不安をなくし、控訴人と被控訴人あるいはその承継人との間で将来にわたつて争いをなくし、確定する必要があるからである。

3  仮に本件土地の所有者あるいは共有者が大柿一族の者らであるとしても、本件土地の登記簿表題部に大柿一族に関する記載はない。

したがつて、その全部または一部の者を相手方として被控訴人が確認訴訟を提記し、勝訴判決を得たうえ、その判決に基づき所有権保存登記ないし移転登記を申請したとしても、法務局がこれを受理してその登記手続をする保証はない。

また、大柿一族の相続人全員が本件土地の所有権保存登記ないし移転登記を法務局に申請したとしても、その申請は拒否される。相続人らとしては判決を得て登記を得る以外にないが、「広島市共有地」なる団体は存在しないから、これは被告となりえないし、右記載が大柿一族の意味であるとすれば自分達のことであるから、訴訟は成立せず、結局国を相手方とする以外にない。相続人らですらそうであるから、被控訴人が国を相手方とするのは当然である。

二  控訴人

1  原判決三枚目表一〇行目「また」から同裏八行目末尾までを次のとおり改める。

「本件土地は、明治以前から全体が大柿一族の墓地として使用されてきた土地であり、昭和三八年八月一日大柿一族の一人である大柿が被控訴人の前代表者である松本サクに売り渡すまでは、同人において永くその管理に当たつていたものであり(なお、右売渡しに際し、墓所の二坪分が除かれた。)、大柿自身右売買当時本件土地につき所有権を有するものと考えていたこと、また、本件土地の登記簿の表題部所有者欄に「広島市共有地」と記載されているが、他方、広島市は本件土地につき所有権を有しないと主張しており、しかも土地台帳の前身である地券台帳には、もともと「共有地」としか墨書されていなかつたところ、後日いかなる事情からか鉛筆書きで「広島市」なる文字が「共有地」の右肩に書き込まれ、これがこれが土地台帳に移記され、更に登記簿表題部にも移記されたものであり、右の書込みは、時期・体裁等からみて、正規のものとは考え難いこと、更に、明治初年の近代土地所有権制度が確立する過程において、墓地は、「社寺領上知令」(明治四年太政官布告第四号)による上知の対象から除かれ、その後の官民有区分でも、「改正地所名称区分」(明治七年太政官布告第一二〇号)・「地所処分仮規則」(明治八年地租改正事務局議定)によつて民有地の取扱いがされており、本件土地も官有地であるとは考え難いこと、以上を総合考察するならば、本件土地は、祭祀財産として大柿一族において祭祀を主宰する者に代々承継され、売買当時少くとも大柿を所有者の一人とする共有であつた、とみるのが相当である。

のみならず、共有者が何人であれ、いつたんその共有に属したことを否定し難い土地につき、共有者が具体的に明らかでないというだけで当該土地が無主の不動産化し、国庫に帰属するものでない。すなわち、共有者がいずれも死亡し、その相続人の存否が不明である場合にあつては、旧民法下では、相続人の曠欠の制度があり(同法一〇五一条以下参照)、現民法においてもこれに相応する相続人の不存在の制度があるのであるから(同法九五一条以下参照)、いずれにあつても、そこで定める相続人捜索等の手続がとられた後、相続財産管理人から国有財産を管理する国の機関に引き継がれて初めて当該土地は国庫に帰属するものであり、このような手続がとられたことにつき何ら主張・立証のない本件土地の場合、国庫に帰属したということはできない。付言するならば、本件土地につき共有者が一人でも存在する限り、無主の不動産として国庫に帰属することはありえない(民法二五五条、九五八条の三、九五九条各参照)。」

2  被控訴人は、本件土地につき国が抽象的に無主の不動産の所有者として所有権を主張しうる立場にあるだけで所有権確認訴訟の相手方となる適格性を有すると主張するが、国の本件土地に対する所有権の取得が現実化していないのに民法二三九条二項の規定上無主の不動産は国が所有権を取得する地位にあるというだけで国に所有権確認訴訟の当事者適格を肯定すべき理由は何ら見出しえない。のみならず、仮にこれを肯定するならば当該不動産が国庫に帰属するために必要な法律上の手続が履践されないまま所有権登記がなされる結果当該不動産につき利害関係を有する者の利益を保護しえないこととなる。

3  不動産の表示の登記がなされているけれども初めてなす所有権の登記はなされていない土地につき、これを取得時効の完成により取得した者が所有権の登記をなすに当たつては、登記簿の表題部に記載されている所有者又はその相続人(以下「所有名義人」という。)の協力を得てこれをなすのが不動産登記法の定める取扱いであり(同法一〇〇条一項一号、八一条ノ六各参照)、この趣旨からして、所有名義人の協力が得られないため判決により自己の権利を証明して所有権の登記をする場合(同法一〇〇条一項二号参照)も、所有名義人と無関係に判決により自己の権利を証明したところで、これによつては所有権の登記をなすことができないと解される。なんとなれば、このように解するのでなければ、全くの無権利者が所有名義人以外の者と通謀して馴合訴訟を演じることにより勝訴判決を得て所有権の登記をすることも可能となり、ひいては不動産の表示に関する登記制度が無意味化せざるを得ないからである。

そして、このことは、登記簿の表題部に例えば「共有地」あるいは「大字○○」といつた記載しかなされておらず、このため右記載自体からは所有名義人が何人であるか直ちに特定しえない場合であつても、同様に妥当するといつてよい。けだし、この場合でも、右記載等を手がかりに調査を尽くすことによつて何人が所有者であるか判明する限り、その者を不動産登記法上所有名義人に準じる者として取り扱うことが相当であるからである。

そうすると、本件土地の場合、登記簿の表題部に「広島市共有地」と記載されているが、「広島市」なる記載は格別意味をもつものではなく、右「共有地」の記載のほか、本件土地が大柿一族の墓地として永く使用されてきたこと等の事実に徴すると、本件土地は大柿一族において祭祀を主宰する者が代々承継してきた共有地ではないかとみられるのであるから、被控訴人としては、この点に関する調査を尽くし、本来登記簿の表題部に記載されるべき所有者たる共有者が何人であるかを明らかにした上、その者が既に死亡しているならば、相続人を相手方として所有権確認訴訟を提起すべきものであり、被控訴人はこの訴訟において勝訴判決を得ることによつて本件土地につき所有権登記をすることができるのであるから、国を相手方とする所有権確認訴訟を認める必要はない。したがつて、被控訴人の主張は失当である。

第三証拠 <略>

理由

一  本件訴えの利益ないし被告適格の存否について判断する。

1  被控訴人は、本件土地は無主物として国庫の所有に帰していたところ、時効により所有権を取得したので、前主である控訴人との間で所有権の確認を求めるというので、この点について検討する。

本件土地について、その登記簿表題部の所有者欄に「広島市共有地」という記載のみがなされており、所有権保存登記はなされていないことは当事者間に争いがなく、右事実と<証拠略>によれば、本件土地は、明治以前から全体が大柿一族の墓地として使用されてきた土地であり、右一族の一人である大柿において永くその管理にあたつてきたこと、右大柿は、昭和三八年二月一六日、本件土地の登記簿表題部所有者欄の更正登記を申請するため、広島市長に対し、本件土地の所有者が広島市でないことの証明を願い出、同年三月四日、同市長からその旨の証明書の交付を受けたこと、昭和三八年八月一日、被控訴人の当時の代表役員であつた松本サクは、被控訴人を代表して、売主大柿から、本件土地のうち大柿一族の墓所二坪(本件土地全体にあつた墓を一箇所に寄せ集めて作られたもの)を除くその余の土地を代金一五〇万円で買い受けたこと、その際作成された売買契約書には、大柿がその所有に係る右土地を(利害関係を有する全員の同意を得て)松本サクに売り渡す旨の記載があること、その後大柿は死亡しているが、被控訴人代表者森口は、本訴提起前に、その相続人である二人の者に会つており、その他に二人の相続人がいることも判明していることが認められ、右認定に反する証拠はない。

また、本件土地の登記簿表題部所有者欄には、前記のとおり「広島市共有地」と記載されているが、<証拠略>によれば、土地台帳の前身である地券台帳にはもともと「共有地」としか墨書されていなかつたのであり、後日「広島市」の文字が「共有地」の右肩に書き込まれ、土地台帳の所有者等欄に「広島市共有地」と移記されたことが認められるが、どのような経緯で書き込まれたかは証拠上定かでない。

また、<証拠略>によれば、明治初年の近代土地所有権制度が確立する過程において、墓地は、「社寺領上知令」(明治四年太政官布告第四号)による上知の対象から除かれ、その後の官民有区分でも、「改正地所名称区別」(明治七年太政官布告第一二〇号)、「地所処分仮規則」(明治八年地租改正事務局議定)によつて民有地の取り扱いがされていることが認められ、右経緯に照らし本件土地も官有地とは考え難い。

以上を総合すると、本件土地が無主の不動産として国庫に帰属していたとは到底認められず、本件土地は、祭祀財産として大柿一族において祭祀を主宰する者に代々承継され、右売買当時少なくとも大柿を所有者の一人とする共有地であつたとみるのが相当である。したがつて、控訴人が本件土地の前所有者であることを根拠に控訴人との間に確認の利益があるとする被控訴人の主張は採用できない。

2  そして、<証拠略>によれば、控訴人が本件土地について被控訴人の所有権を否認したり、自ら本件土地について所有権等の権利を主張したりしているものでないことが認められるが、被控訴人は、その場合でも、控訴人の将来の担当者の意向で控訴人が所有権を主張することがありうるから、そのような不安をなくし、控訴人と被控訴人及びその承継人との間で将来にわたつて争いをなくする必要から確認の利益があると主張する。しかしながら、確認の利益があるというためには、原被告間の紛争に即時確定の必要性がなければならないのであつて、将来控訴人が本件土地について所有権を主張するかもしれないということでは、即時確定の必要のないことが明らかであり、被控訴人の右主張は採用できない。

3  また、被控訴人は、仮に大柿一族の者を相手方として確認判決を得て、その判決に基づき所有権保存登記を申請したとしても、本件土地の登記簿表題部に大柿一族に関する記載がないから、登記実務上その申請は拒否されることが予測されること等を根拠に、控訴人を相手方として確認訴訟を提起する以外に方法はない旨主張する。そして、本件土地の場合、登記簿表題部に「広島市共有地」の記載しかなく、前示のとおり「広島市」の記載は格別意味を持つわけではないから、右記載自体からは表題部の所有名義人が何人であるか特定できない。しかしながら、たとえ登記実務上被控訴人主張のような事態が予測されるとしても、その事の故に、直ちに控訴人との間で紛争の即時確定の必要性があるということにはならない。したがつて、被控訴人の右主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本件訴えは確認の利益がなく、したがつてまた、控訴人に被告適格はないというべきである。

二  よつて、本件訴えは不適法として却下すべきものであり、被控訴人の請求を認容した原判決は不当であるからこれを取り消し、被控訴人の本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村捷三 高木積夫 池田克俊)

【参考】第一審(広島地裁昭和六〇年(ワ)第八一三号 昭和六一年三月二八日判決)

主文

一 別紙物件目録(一)に記載の土地は、原告の所有であることを確認する。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一申立

一 原告

主文同旨

二 被告

1(本案前の申立)

本件訴えを却下する。

2(本案についての申立)

原告の請求を棄却する。

3 訴訟費用は原告の負担とする。

第二主張

一 請求原因

1 別紙物件目録(一)に記載の土地(以下、本件土地という。)については、その登記簿表題部の所有者欄に「広島市共有地」という記載のみがなされており、所有権保存登記はなされていない。

2 しかしながら、「広島市共有地」なる団体もしくは個人については一切が不明であり、本件土地は無主の不動産であるから、民法二三九条二項により国庫に帰属したものである。

3 原告は、遅くとも昭和三九年九月五日、本件土地上に別紙物件目録(二)に記載の建物(以下、本件建物という。)を建築し、これを所有しており、同日以降、所有の意思をもつて、平穏かつ公然と本件土地を占有して来た。

4 このため、右同日から二〇年を経過した昭和五九年九月四日に本件土地について原告のため取得時効が完成しているので、原告はこれを援用する。

5 原告は、被告との間で本件土地が原告の所有であることの確認を求めることによつて、本件土地につき所有権保存登記を経由することができ、右確認の利益を有している。

6 よつて、原告は、被告との間で本件土地が原告の所有であることの確認を求める。

二 請求原因に対する認否並びに反論

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実のうち、本件土地が国庫に帰属したことは争い、その余の事実は不知。本件土地登記簿表題部の所有者欄に「広島市共有地」と記載されていることからして、右所有者が存在することは十分考えられる。また、本件土地は、享保年間(約二七〇年前)から、大柿家の先祖伝来の墓地として使用されており、昭和三八年二月一六日に至り、大柿が、右表題部所有者欄の更正登記をするため、広島市に対して、本件土地が同市の所有でないことの証明申請をなし、同年三月四日、その旨の証明書の交付を受け、同年八月一日松本サク(原告の名称変更前の責任役員)に対して、本件土地を代金一五〇万円で譲渡しているものであり、以上の事実関係からすれば、本件土地が無主の不動産であるとはいい得ないものである。

3 同3の事実のうち、原告が、昭和三九年九月五日に本件土地上に本件建物を建築し、これを所有していることは認めるが、その余は不知。

4 同4は争う。

5 同5も争う。

前述のとおり、本件土地は無主の不動産であつたことはないのであつて、本件訴えは被告を誤つている。

また、確認の訴えの利益は、原告の権利又は法律的地位に現存する不安を除去するために、一定の権利関係の存否を、反対の利害関係人である被告との間で判決によつて確認することが必要かつ適切である場合に認められるものである。従つて、被告が、原告の権利又は法律的地位を否認したり、原告の主張と相容れない権利主張をすることによつて、原告の権利を妨害しているのであれば、右確認の利益があるといえるが、本件においては、被告は何ら本件土地についての権利を主張しているものではないから、原告と反対の利害関係人であるとはいえず、本件においては確認の利益が存しない。(東京地裁昭和五〇年八月二九日判決・判例時報八〇八号八〇頁を参照)

第三証拠関係 <略>

理由

一 まず、本件訴えの利益ないし被告適格の存否について判断する。

1 請求原因1の事実、及び同3の事実のうち、原告が昭和三九年九月五日に本件土地上に本件建物を建築し、これを所有していることは当事者間に争いがなく、右事実に、<証拠略>を総合すると、本件土地は、もと大柿が管理していた墳墓地であり、その全体にわたつて多数の墓石が建立されていたこと、右墓石の大部分は大柿ゆかりのものであるが、明治以前に建立されたものもあつて、被埋葬者を確定し難いものも多いこと、大柿は、昭和三八年二月一六日、本件土地登記簿の表題部所有者欄の更正登記申請をするため、広島市長に対し、本件土地の所有者が広島市ではないことの証明を願い出、同年三月四日、同市長からその旨の証明書の交付を受けたが、右更正登記を得ることはできなかつたこと、当時大柿は、「広島市共有地」なるものの実体について調査したが、何ら手がかりが得られなかつたこと、昭和三八年八月一日、原告の前代表役員であつた亡松本サクは、原告を代表して、大柿から、本件土地を代金一五〇万円で買い受けたこと、その際作成された売買契約書には、大柿が本件土地の所有者である旨記載されているが、また、右契約書には、同人が、利害関係を有する者全員の承諾を得て本件土地を売り渡す旨の記載がなされていること、原告は昭和三九年九月五日に本件土地上に本件建物を建築し、以後これを所有して本件土地を占有していること、本訴提起に当たり、原告も、「広島市共有地」なるものの実体について調査したが、何ら手がかりが得られなかつたこと、この間、原告に対し、本件土地について所有権等の権利を主張し、あるいは原告の占有について異議を申し立てる等した者はいないこと、なお、その後大柿は死亡しているが、同人の相続人らは、本件土地が原告の所有であることを認めてこれを争つていないこと、以上の事実が認められる。

2 右事実関係によれば、本件土地は、かなり古くから、大柿ゆかりの者多数によつて墳墓地として使用されて来たものと思われ、その登記簿表題部の所有者欄に「広島市共有地」と記載されていることからみて、広島に市制が敷かれた明治二二年(そのことは公知の事実である。)当時、広島市ないしはその住民の共有ないしは総有であつたもののように思われる(大柿も、本件土地が同人所有であるものとしてこれを原告に売却しているが、利害関係人のあることを推測している。)が、広島市は前記のとおり本件土地がその所有に属さないものであることを自認しているし、右住民も大柿ゆかりの者であろうと推測はされるものの、その範囲を確定することができず、結局において、原告が本件土地を買い受けた当時において、その所有者は不明であつてこれを確知することができなかつたものといわざるを得ない。

そしてまた前記事実関係からすれば、本件土地を時効取得したと主張する原告は、不動産登記法一〇〇条二号により所有権保存登記を申請するため、何人かを相手方として、本件土地について所有権確認の判決を求める法律的利益を有するものというべきであり、原告が本件土地を買い受けた当時、その所有者は不明であつてこれを確知することができなかつたものであることからして、本件土地は無主の不動産であつたものというべく、民法二三九条二項により国庫に帰属していたものと解するのが相当であるから、被告には本件訴えについてその適格があるものというべきである。

3 なお、前記事実関係によれば、本件土地については、大柿がこれを時効取得していた可能性があるが、その占有の始期を確定するに足る証拠はなく、また時効は当事者の援用を待つて判断すべきものであつて、被告にその援用権があるか否か疑問であるのみならず、本件においては被告はこれを援用していないのであるから、これを前提として前記訴えの利益ないしは被告適格の問題を判断すべきものではないと解される。

また、被告は、原告の本件土地所有権を積極的に否認し、あるいは自ら本件土地について所有権等の権利を主張しているものではないが、また被告は、原告の本件土地所有権を積極的に容認する訳でもなく、本訴請求を棄却する旨の判決を求めているのであるから、原被告間には、本件土地所有権の帰属について結局争いがあるものというべきであり、さらに前記のとおり、被告は、本件土地について原告の前主たる地位にあるのであるから、原被告間において、判決によつて原告の本件土地所有権の確認を求めることは、原告の右権利についての不安を除去するために必要かつ適切なことというべきである。

二 よつて進んで、原告の時効取得の主張について判断するに、前示事実関係からすれば、原告は、本件土地上に本件建物を建築した昭和三九年九月五日以降、所有の意思をもつて、平穏かつ公然と本件土地を占有して来たものであるから、二〇年を経過した昭和五九年九月五日限り、本件土地を時効取得したものというべきである。

三 従つて、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小西秀宣)

物件目録

(一) 所在   広島市南区比治山町

地番   九弐九番

地目   墳墓地

地積   七弐七・弐七平方メートル

(二) 所在   広島市南区比治山町九弐九番地

家屋番号 九弐九番

種類   本殿兼礼拝堂

構造   木造瓦葺弐階建

床面積  壱階 壱〇七・壱弐平方メートル

弐階 四四・六弐平方メートル

附属建物の表示

符号  1

種類  物置

構造  木造スレート葺平家建

床面積 五・壱〇平方メートル

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例